第99章 井上さん、それは気楽な言い草ですね

幸いなことに、柏原家の運転手は無口な男だった。

C&Mグループまでの道のりを沈黙のまま過ごし、福田祐衣は礼を言って車を降りた。運転手の視線を背中に感じながら、彼女は硬い表情で会社へと足を踏み入れた。

福田祐衣の姿を見て、受付の女性が目を丸くする。

「福田さん? 今日は休暇を取られたのでは?」

福田祐衣はぎこちなく微笑んだ。

「会社に忘れ物をしてしまって。ちょっと取りに戻ったの」

受付は納得したように頷き、エレベーターに乗り込む福田祐衣を見送った。

事業部に戻った福田祐衣は、古川美月を適当な言葉でやり過ごし、オフィスに入るとすぐに内側から鍵をかけた。早足で窓辺に歩み寄り、柏原家の...

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